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韓国の新たな社会統合政策についての研究
Research for New Social Unification Policy in Korea

Blind Spot of Polecy

死角地帯①医療:希望의親旧들
健康維持が韓国社会に最もコストを掛けない方法だ。
不法労働者の健康に政府は関心をもつべき

医療チーム主席チーム長 イ・エラン(Lee.Aeran)氏

イ・エラン
医療チーム主席チーム長 イ・エラン(Lee.Aeran)氏

希望의親旧(親旧は日本語でいう友)は不法在留の外国人労働者やその子供である未登録児童、難民など、韓国内で健康保険に加入できない外国人を対象とした医療共済事業を展開している。イ・エラン(Lee.Aeran)医療チーム主席チーム長に話を聞いた

Q:現在の医療ネットワークについてお話してください。

私たちの団体は移住民医療共済会の運営をとおし基本的な医療支援と健康の広報をおこなっている。99年に事業を開始した。対象は移住労働者。雇用許可制、産業研修の資格で入国した人だ。不法労働者は健康保険がない。一般疾病、労災などが発生しても恵沢を受けられず健康権が脅かされた。それで個別の相談所だけでなくNGOを作って支援を始めた。

共済会の会員は医療死角地帯の未登録外国人だ。未登録者と医療機関とをつなげる。会員が行った時に医療費減免してもらう。地域の協力相談所とも連携しており、希望の親旧は中央事務処だ。共済はこの三角形で運営されている。 全国に41の登録相談所がある。首都圏とソウルに多い。中部。大邱、光州にも相談所がある。

会員は外国人労働者と韓国で生まれた外国人労働者の子供たち。留学生のうち勉強ではなく主に労働に従事する人や、難民申請中の人。人道的在留者難民に認定がもらえなかった人、無国籍者も加入している。会員は現在14,000名超えるが、労働者らはビザが無いので職場を求めて移動する。仕事が無ければ共済を脱退して、仕事を始めるとまた加入というような状態だ。実質的な活動者は4000名。加入費10000ウォン、月会費10000ウォン。被扶養者も6名まで認めている。例えば、子供2人の場合は会費が15000ウォンだ。

支援内容は昨年までは緊急に入院や手術の必要な人だけだったが、外国人の滞在長期化に伴い、今年からは外来診療へも支援を広げた。そのため会費を6000ウォンから10000ウォンに引き上げた。10万ウォン以上については40%を共済から支援している。これは2年の試験的に行っているものだ。これらの事業は健康保険とまでは行かないが、本人も会費を支払うので相互扶助的なもので、基本的に民間の安全網のようなものだ。会費だけでカバーしきれない時は基金を受ける。現代自動車の基金がある。

Q:医療をめぐる団体の活動現況を教えてください。

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近年顕著なのは慢性的な病気が増えてきていることだ。在留が長期化し高齢化も進んでいる。つらい肉体労働を続けているため筋骨肉系の疾患、年齢のための心臓、脳疾患は多い。

 それから、もともと分娩費の支援を行っていたが、現実問題として、妊娠するとすぐに職場を失い、職場を失うと在留資格がなくなる。そのため産前産後管理を怠る妊婦が多く、母性保護が脆弱化している。基金をとおしてこれらの支援も行っている。また既存の共済で早産や流産の場合も治療費支援で母子共に治療が受けられるようにしている。

 女性移住労働者の立場は大変に脆弱だ。母性保護面、女性特有の婦人科疾患もある、普段からの健康管理が必要だができないのが現状だ。性暴力の問題もある。それから子供たちの問題がある。韓国で生まれた移住労働者の子供たちは在留資格がないために健康保険に加入できない。その上、母親が産前管理ができないため未熟児で生まれる子供がしばしばいる。未熟児で生まれれば高額な医療費負担となる。一人当たり4~5千万ウォンから億を超す事例も多い。また先天的疾患で生まれる子供の場合、心臓の問題、気胸の手術が必要なこともある。複合的な先天的疾患を持って生まれた場合も、高額な医療費がかかる。このような場合は共済だけでなく募金も行う。今もそうした事例がある。ダウン症候群で心臓手術が必要だ。保育器で集中治療も必要だ。こうなればその家庭自体が危機に陥る。母は子供の世話をしなければならないので仕事ができない。父親が一人で稼がなければならないが、一人の稼ぎでは治療費はおろか生活費まで危いのが現実だ。

 それよりも多いのは労災だ。切断とか墜落による骨折、労災を受けなければならないだが、事業所が小さく、労災のすべてに対応できない場合だ。これらを共済でカバーする時がある。大部分は20~40代の健康な移住労働者らなので、こうしたことは頻繁に起きる。共済は不法労働者だけでなく、ビザを持つ労働者でも、事業所が労災に対応できない場合などは会員でなくても緊急基金を募って救済支援を行っている。事業所も法的な労災の保証ではないが一部を負担したり治療費を仮払いしたりするが、結局は労働者の負担が大きい。多くは農業や建設現場の小さな建設現場は労災対象から除外されている場合もある。一般製造業ではとても小さい工場などは労災適用を受けることができない場合だ。

 共済は全ての治療をするわけでない。基本的に定められているものについてはカバーするが、労災や国家指定代謝性疾患や交通事故、喧嘩によるけが、疾病でない理由で治療を受けるようなものは基本的に共済対象とはならない。ただし、被害者なのに保証が受けられない場合、例えば今治療を受けないと後遺症や障害が残るといったケースなどは支援を行う。

Q:パンフレットではメンタルヘルスの問題、また子供の問題にも触れていましたが。

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心の健康については症状が深刻な状態になって初めて見えてくるケースが多い。特に子供の場合は成長の過程で問題が発覚するので団体では支援プログラムを行っている。子供の場合は大人と違って本人の選択で韓国に来たわけではない。多文化家族の子供も同じだ。心理相談を中心に、美術治療、言語治療、個別治療なども行っている。

 成人の場合は韓国の社会でのストレス、憂鬱、アルコール中毒などが多い。病気やけがは勿論難病もあるが、いったんは完治することで職場復帰も可能である。それに比べ心の健康の問題は他国で経験するので自分に問題があって専門家に助けてもらわなくてはならないと自覚するまでに時間がかかる。わかった時点ですでに仕事だけでなく日常生活も困難な場合もある。緊急入院し、退院しても帰国する場合が多い。こうした事例もしばしば発生している。

 移住労働者にもっとも多いのはアルコールの問題だ。理由はいろいろある。韓国の職場は酒文化だ。もともとお酒を飲まなかった人が付き合いでのむようになって、調節ができなくて急性アルコール中毒や依存症になる。また寂しいから同じ境遇の友達と集まってお酒を飲む機会も増える。合併症もある。入院の必要がある場合もある。また定着過程でストレス、うつ、ホームシックもあるが、帰国すればましになる場合も多い。これらが最も難しい。初期に発見できれば良いが、まずは言語の問題のために難しい。移住労働者の多い国家の言語で対応している専門家が少ないのが心の健康問題への対応を難しくしている点だ。本団体では早期発見のために多国語でスクリーニングができる冊子を作成して自治体や医療関連、外国人関連施設で配布している。

 結婚移民女性らも実は脆弱な立場だ。母親も韓国に適応できてないのに、妊娠してしまう。夫や婚家に自分なりに育てろと言われると、韓国式の子育てを知らずに子供は同じ年の子ができることもできないまま大きくなる。母親は韓国語がうまく話せないので子供への言葉がけがおのずと少なくなる。そのため子供の情緒発達が遅れる。こども園に行き始めるとその差が明らかになる。同じ年の子よりも語彙が少なく、駄々をこねるし、よく泣く。

この事業では未就学でこのような症状の子供を協力病院へつなげている。子供は日々成長しているので、素早く適用できるようになる場合もある。父母も変わらなきゃならない。子供だけ変わっても親が変わらなければ症状を繰り返すこともある。

 移住労働者の子供はもっと弱い立場だ。未登録なので韓国で生まれても児童福祉の適用から除外される。在留資格がないので見つからないようにずっと家にこもらせることになる。現在は適切な養育環境になかったフィリピン人の子供の治療支援中だ。7歳と8歳だが、この子たちには母語が無い。父母はフィリピン人なので英語とタガログ語を使うのだが、こども園で韓国語を話していたので、意思表現がうまくできない。集団プログラムにも参加できないし授業についていけない。この場合は父母は韓国語を習って疎通をしなければならない。このような子どもが実は多い。これは大きな問題だ。難民も同じだ。身分がばれると危険なので子供たちは外へ出さない。韓国政府も多文化家族に予算を使い施設も整備しているが、深刻な状態になると政府の介入ができない。移住民家族はその対象にもなっていない。

 親が合法の在留資格を得ていても子供の健康保険の加入は難しい。それは両親が事実婚の場合が多いため家族関係を証明できないからだ。また、最近は本国に残された子供が観光ビザなどで入国するケースもある。この場合も未登録児童となる。ただ、最近は中央政府レベルで児童移民について関心を寄せているので公教育を受けることができる指針をだしている。ただこれは指針レベルなので学校が拒否することもある。

Q:事業の問題は?

 高齢の移住民など糖尿、高血圧など一生薬を飲まなくてはならない場合、どこまで共済でカバーしなければならないのか悩む。死に至るまでは関係するつもりでいるが民間では限界がある。恵沢を受けられない場合は民間で支援しなければならないというのは言葉では簡単だが、人間人生で発生する健康の問題なので政府も何かをしなければならないはずだ。移住民だから起きる問題なのだから受容した政府が問題解決に責任を持つべきだ。どうしても政府の手が回らない死角地帯にある人に対しては民間でするのは分るが、生命の危険を伴う場合は政府がすべきだ。政府が支援する制度はあるが、病院が指定されていたり、システムが硬直していたりで実際には機能しづらいのが現状だ。

 観光ビザや医療目的で入国する外国人も治療費がなくて問い合わせが来る。また、移住労働者の家族が治療目的で来る場合もある。だが、支援の境界が難しい。例えば短期ビザで来て働いていて脳出血や心臓病で倒れたりする場合がある。この人たちはもともと持病がある場合もある。特にタイはビザ要件が緩和されたのでタイ方面からくる人は高齢だったりもして問題が多い。雇用許可ではなく。これは政府次元で対策が無ければならないはずだ。最近は結婚移民者の家族も韓国に来る。この人たちも働いて病気になれば頼ってくる。

Q:今の制度へ提言するとしたら。

 すでに産業現場はこう着している。雇用許可制であれ何であれ、外国人の韓国内での在留条件を緩和し、長期の在留ビザを出すことが、むしろ社会保障費の節減につながるのではないかと思う。例えば家族同伴を認めるのも一つの代案だ。今はこれを認めないから事実婚で夫婦が入国し、子供ができると未登録児童になる。問題が生じれば民間がこれを支援しているが、民間も韓国社会だ。システムがあれば防げるはずの疾病や解決が可能な問題なのにより多くのコストがかかっている。

 現在の制度だと3年しかいないから健康保険に加入しないという人がいる。これが逆に症状が軽い時に自分でなんとかしようとして症状を悪化させ、結果として高額な医療費に繋がる。これが今後10年この国で働くとなれば外国人も安全に過ごすことを考え準備もする。いまは韓国社会が高費用で移住労働者の健康問題を解決しているのと同じだ。

 居住期間が長引くと外国人が永住資格申請の道を開くことになるという意見もあるが、実際のところこの人たちは経済活動をする人だし、永住資格を付与する時には厳しい審査がある。中には韓国で永住しようと考える人もいるが、多くは韓国で稼いだお金で母国でより良い生活をしようと考えている。

 政府ではなく自治体レベルでこうした予防と管理で解決するのも方法だろう。納税と健康管理をリンクし健康診断などの予防に努めれば低費用で解決できる。健康状態でいることが最もコストがかからない方法なのだ。現在、政府の立場では福祉、医療はお金がかかる部署なので保守的にならざるを得ない。ただ、未登録児童でも保険所に登録しておけば予防接種を受けられる。この制度を成人に広げるという方法もある。検診も基本的な物だけであれば、保険所、公共病院、NGOでも行える。良い方法を探そうと思えばチャンネルは多い。(2016年9月)

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