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韓国の新たな社会統合政策についての研究
Research for New Social Unification Policy in Korea

Research theme

研究の概要

本研究は1990年以降の韓国政府の新たな社会統合の在り方を俯瞰することを目的としています。

韓国は日本と同様に長らく国外に拠点を持つ人々の国内での処遇を出入国管理法のみで規定してきました。しかしながら韓国政府は1990年代以降、東側諸国との国交樹立など国際関係の変化、グローバ ル化や国内の賃金高騰、金融危機など経済構造の急激な変化による外国人の流入、また近年では少子高齢社会に拍車をかけるベビーブーマーの一斉退職を目前とし、これらへの弛みない対応を迫られています。

韓国政府は1990年代後半から、海外に住む韓国籍者、韓国系の外国籍者の約500万人に加え、外国人労働者や、韓国人との結婚によって韓国に移り住んだ人々、さらには脱北者や国際協約批准による難民を含め、短期的にであれ、永続的にであれ共に暮らす人々として新たな制度整備を推進しています。こうした社会統合の事例は世界のどこにも前例がありません。そのために、各国の政策の良いところを取り入れカスタマイズしたり、全く新しく作られたりしていて大変に斬新な印象を受けます。しかしながら新しさゆえにこれまでになかった問題も生まれてきます。

本ホームページでは、こうした制度設計の変化を捉え、外国人受け入れ政策の事例資料として関心のある皆さんに広く情報提供することを目的としています

研究の二つのディレクション

内なる制度の動力構造

図1.キーワード関係図

図1. キーワード関係図

訪問調査していて気づかされるのは、調査協力者がいくつかの共通したキーワードを口にすることです
 それらは「知識ファクト(지식과 펙트)「死角地帯(사각지대)」「共感帯(공감대)」という言葉です。

そのままでは日本人には意味がよく通じませんが、図①のように大雑把ではありますがちょうどキーワードと属性を一致させることができます。これらの言葉は立場によって少しづつ異なった文脈で使われていますので注意が必要です。ただ、これらのキーワードで示される事がらのバランスが、様々なバックグラウンドを持つ人々と共に暮らす社会を作り出すという認識は共通しています。

本研究ではこれらのキーワードをヒントに、韓国の社会統合の動きをトレースします。本研究の課題は韓国政府による制度整備の在り方を俯瞰することです。しかしながら制度を客観的に評価するためには、実地調査で得た制度の適用対象者や制度に関連する人々、延いては社会や国民の視点は欠かせません。本ホームページでは、研究論文ではカバー仕切れない実地調査で得た情報を中心に関心のある皆さんに情報を提供していきます。

知識(지식)

知識(지식)とは、Intellect、理知のような意味で法律や制度設計、政策の在り方や施策など、主に中央政府や行政の認識を意味する場合に使用されています。

ファクト(펙트)

ファクト(펙트)とはFact、事実や実態などを指します。主に当事者や彼らの支援者らが、施策と乖離した実情や制度の不備を表現する際に「知識」の対義語として発せられる言葉です。

死角もしくは死角地帯(사각)

死角もしくは死角地帯(사각)とは日本語で言う「制度のすきま」のことを表現した言葉です。多くの支援団体は制度では救済できないこれらの部分をサポートしています。具体的には不法在留者の人権や健康、労働に関する問題、外国人労働者の子供である未登録児童の心身のケアや教育をとおした本国帰国後の適応支援、結婚移民者や女性労働者に対する人権保護やハラスメント・DV対策、母性保護支援、難民認定の手助けなどが主な活動です。

共感帯(공감대)

共感帯(공감대)とは日本語で言う合意のことです。韓国でどのように合意形成(consensus-building)がなされているのか。人々の言葉からは、韓国の国民が外国人の受け入れや共に暮らすことの必要性を認識し、重要性を共感し、新たな隣人を理解することで為し得ると考えられているように見受けられます。メディアによって左右される危うさもあります。現実的には国民と外国人との接点や、特定の対象者への制度的な優遇措置によって生じる国民の利害や葛藤をいかに解消するかが政策のポイントとなっているようです。合意形成のために韓国では政府の外郭団体などが政策提言を行っています。

政策のワールドワイドな波及効果

この政策の驚くべき作用は、それぞれの制度やシステムを元に人々がワールドワイドに繋がっているということです。こうした人脈をとおした地球規模の「韓国」の影響力の波及は色々な場面で目撃することができます。これは現地での調査を行う前には予想できなかったことです。

例えば、韓国のNGOが出稼ぎ労働者の出身国(母国)に学校を建てるための財政支援をしています。これは出稼ぎ労働者が帰国後も韓国と関係を維持し続けていから成り立つのです。また、帰国者は次に韓国に出稼ぎに行く人の苦労を少しでも軽減するため、母国で韓国語や労働法教育を行っており、これもまたNGOが財政支援を行っている。あるいは永住資格で韓国に住む国際結婚をした夫が、母国の存在を韓国に広めようとエスニックレストランを運営しながら、基金を募って母国の子供たちへ経済支援をしている事例もあります。

 

朝鮮系中国人の人は、働いて稼いだお金の多くを家族のいる東北三省に送金しています。そのおかげで中国の朝鮮系中国人の居住地域が発展し、「第二の韓国」が作り出されています(이영민·이은하·이화용2013“중국 조선족의 글로벌 이주 네트워크와 연변지역의 사회-공간적 변화” 한국도시지리학회지 제16권 3호)。これらの地域はそれだけでなく韓国や中国都市部に移動した労働力の空席を北朝鮮の出稼ぎ労働者が穴埋めしており、彼らもまた北朝鮮の新たなビジネスモデルの原動力となっているとの報告もあります(김윤영, 유시은 2016“중국 내 비자 방문 북한 여성들의 경제활동 경험과 의식변화.” 다문화와 평화 10(1), pp .50-71。)。韓国ソウルの大林洞は分断した南北の人・資本・文化の移住者を介した連鎖の出発点ともいえるわけです。

 

研究では韓国内の政策に留まらず、人を媒介した韓国の統合政策の波及効果によって直・間接的な韓国の影響力が広がっていく様子にも注目します。

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