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韓国の新たな社会統合政策についての研究
Research for New Social Unification Policy in Korea

Intellect

外国人や外国に暮らす韓国籍の人々をめぐる新たな制度

長期在留外国人の推移
図1. 長期在留外国人の推移

1990年の韓国の外国人登録者数は人口のわずか0.1%で、その大半が華僑と在韓米軍でした。これらは図①のとおり2015年末には3%にまで増加しました。外国人増加のきっかけは盧泰愚大統領による東側諸国との国交正常化、国内賃金高騰への対応策として外国人産業就業制度の新設です。また政府や行政の主導で農村に住む独身男性と外国人女性の結婚事業なども推進されました。

制度の変化
図2.「制度の変化」

1993年に出入国管理法が全面的に改正されました。それ以降は出入国管理法施行令施行規則の改正によって外国人の出入国と在留資格要件をコントロールしています。図②「制度の変化」は1990年以降に新設された制度を中心にその方向性を示したものです。韓国の外国人をめぐる制度はコントロールを主目的とした出入国管理法や韓国人と外国人の境界を明確にする国籍法民法によって規定されていました。それらが、時を経て外国人労働者、結婚による移民者、外国籍の韓国にルーツを持つ人々の国内でのアイデンティティを尊重する制度の新設へ、さらには国際社会での責任を果たすという側面からすべての人々の人権に基づいたユニバーサルな制度が新設されました。韓国の制度設計は1990年代の統制の時代から徐々に互いの権利を認め合い、共に暮らす共存の時代へと進みつつあると言えます。

金泳三政権期

1996年にグローバル化を目標に、海外に住む韓国系の人々を「民族の血統」という紐帯で関係強化する在外同胞財団法が制定されました。ただし、「民族の血統」の文言は他の制度との矛盾や国内世論、国際法上の理由から、この後に制定された制度は過去国籍主義を含め国籍を指標としています。

金大中政権期

1997年の経済危機以降は、韓国政府とIMFとの取り決めによる規制緩和によって外国人や外国企業の投資規制が緩和され、多様な在留資格での在留が可能になりました。1997年の経済危機をきっかけに行政制度も刷新しました。外国籍者関連ではOECD国家に拠点を持つ韓国系の人々の韓国内での在留を規定する在外同胞の出入国と法的地位に関する法律(以下在外同胞法)をはじめ、富裕層の外国人の在留や投資の誘致を促す外国人土地法の制定、外国人投資促進法の改正がなされました。脱北者の保護を目的とした北朝鮮脱出住民の保護及び定住支援に関する法律も制定されました。

中国・CIS地域に拠点を持つ韓国系の人々

大林洞2016・9・3撮影
大林洞2016・9・3撮影

在外同胞法は制定当初は中国・CIS地域に拠点を持つ韓国系の人々は適用対象から除外されていました。違憲判決後も手続き上で在外同胞としての在留資格を得ることに厳しい条件を設けましたが、代わりに2002年に就業管理制、2007年に訪問就業制を制定し、他の外国人労働者には許可されない業種を担うことが認められました。一方で、同民族であり必要な労働力であることが認識され徐々に制度が緩和されました。2015年1月には多くの中国・CIS地域出身の韓国系の人々が在外同胞の資格で在留することが可能になりました。

外国人労働者と韓国人の配偶者

1990年以降に新たに労働目的で韓国に住むようになった外国人に対しては2003年に外国人勤労者の雇用などに関する法律が施行され、2015年にはオーバーステイなど在留資格のない外国人労働者で組織された労働組合の設立が大法院(日本の最高裁判所)で認められました。2008年には配偶者の一方が韓国人である世帯を支援する多文化家族支援法と、並行して結婚仲介管理に関する法律が制定されました。2013年には国際社会での責任の重要性から難民法が制定されました。

恵化洞2016・9・4撮影
恵化洞2016・9・4撮影

外国人の権益向上

2002年には外国人への永住資格が認められるようになりました。2004年には外国人指紋押捺制度が事実上廃止され(但しアメリカ同時多発テロの影響を受けて入国時の指紋押捺と顔認証を2012年1月1日より強化)、2005年には公職選挙法の改正によって永住資格を持つ外国人の地方選挙での投票が認められました。2007年には在韓外国人処遇基本法が制定され、2008年から5年単位で外国人政策基本計画が推進されています。現在は第2次基本計画(2013‐2017)推進中であり、2018年からの第3次基本計画の策定中です。第3次基本計画ではこれまでの制度のスリム化、制度から抜け落ちた部分の補充や特定の制度適用者が優遇されないような制度の平定化が見込まれます。

海外に居住する韓国籍、韓国系の人々の権益向上や高技能外国人の取り込み また、2009年に公職選挙法が改正され、海外に居住する韓国人への在外投票も可能になりました。2010年には国籍法が改正され制限的に二重国籍を許容し、高い技能や韓国社会への長期にわたる貢献などを指標に特定の外国人の帰化条件も緩和しました。2015年1月には海外に住む韓国籍者に対しては韓国に住む国民と同様に住民登録法の管掌下へ移管しました。

1990年代以降、韓国では外国人や外国籍の韓国系の人々、韓国外に拠点を持つ韓国籍の人々の韓国内での権益を増進し、韓国に人々を引き付けておく制度設計が進んでいると言えます。 韓国では2015年からはベビーブーマーが定年を迎えています。韓国で定年まで勤務する方々の多くは公務員です。ベビーブーマーの定年は若年層の働く場を創出します。一方で長寿が進み定年後も年老いた親世代と収入の不安定な子世代を含めた家族を長く扶養しなければならない人々も生まれてきます。 様々なバックグラウンドを持つ人たちが働き口や権益をめぐって葛藤しています。これらがどのように合意へ結びつくのか、本研究では韓国政府の政策動向に注目します。

詳しくは以下をご参照ください。

拙著

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