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韓国の新たな社会統合政策についての研究
Research for New Social Unification Policy in Korea

Blind Spot of Polecy

Asian Human Rights and Culture Development Forum
韓国での経験をネパールで紡ぐ

フォーラム新役員選出
写真 :
フォーラム新役員

 Asian Human Rights and Culture Development Forum(以下、アシアンフォーラム)は各国で労働経験を持つ帰還移民者によるNGO法人だ。出国前の労働者に対する受け入れ国の社会文化、制度についての情報提供、労災による死亡によって残された家族への支援、海外のNGOや政府機関と協力体制をとりネパールの伝統文化理解のためのプログラム実施や、在留地におけるネパール語での情報提供、問題発生時の解決調停に取り組む。一方で海外NGOの支援を国内の疎外地域へ届けるなどの活動に加え、啓発プログラム実施を行っている。

アシアンフォーラム

アシアンフォーラム創設者
Shiddhi Chandra Baral氏  

Shiddhi Chandra Baral氏
写真 : Shiddhi Chandra Baral氏
 創設者のShiddhi Chandra Baral氏(以下、シッディ氏)は韓国での移住労働経験に加え韓国の外国人支援NGOでの活動経験を持つ。産業研修生の在留資格で1996年1月に入国し、約9年半の韓国在留歴がある。

最初は浦項の溶接業、仕事が速く事業所内で賞をもらうほどだったが、二年半ほど働いた頃に韓国が金融危機に陥り、給与も未払いのまま会社は廃業した。ビザが半年ほど残っていたので知り合いが働く事業所で働けるよう頼んだが、業種変更ができず事業主から警察に通報すると言われ、鞄一つでソウルに向かった。その後は在留資格のない外国人となり餃子工場、縫製工場、アクリル工場などを転々とした。金融危機の影響で多くの韓国人も職を失った。外国人はそれまで以上に劣悪な環境で仕事をしなければならなかった。まだ、韓国にはネパール大使館がなく、在日本ネパール大使館が韓国地域を管掌していた。旅券の更新や何かの問題が生じた時にも外交保護も受けることができない。韓国で働くネパール人コミュニティ団体(NCC)の活動を開始したのもその頃だ。

先ず行ったのは、ネパールの外務省に掛け合い、どうにかして期限の切れたネパール人の旅券を更新することであった。というのも韓国政府は2002年のワールドカップを前に、対外的に治安の問題がないことをアピールするため、不法在留外国人に在留資格を付与し不法在留者の数を減少させる政策にでたためだ。不法在留のネパール人の多くは旅券の期限も過ぎていたために、在留資格の付与を受けるどころか不法在留で送還されてしまう状況であった。逆にパスポートさえあれば、不法在留期間が長い場合でも、新たに一年は在留資格を得て働くことが認められる。外貨を稼ぎネパールに送金することでネパール国家のプラスにもなる。ネパールの外務省をそう説得した。また、韓国内のNGOと連携しながら外国人労働者の処遇改善を訴える活動も行った。明洞聖堂でのろう城経験もある。不法在留外国人も労働者だと移住労働者組合立ち上げにも関わった。長らく認可が受けられなかった移住労働者組合はシッディ氏の帰国後も後身に引き継がれ2015年には大法院(日本の最高裁判所)で活動を公式的に認められる判決が下された。

こうした経験が帰国後のアシアンフォーラム設立につながった。アシアンフォーラムは国内の医療支援、教育支援、エンパワーメントに加え、海外への出稼ぎ労働の留守家族の支援、送出前の情報提供事業などを行っている。

アシアンフォーラムのメンバー
写真 : アシアンフォーラムのメンバー
 移住労働の成功の第一は送出のプロセスだ。ブローカーに法外な手数料を支払う出稼ぎ労働はマイナスから始まる。労働意欲を低下させる。帰国後まもなく受入国の国籍を持つ移住労働ブローカー詐欺集団を取り押さえた。

また、受入国では就労期間終了と同時に帰国させるために帰国後の生活設計を描き準備する時間もない。帰還後は何かを始め所得創出に繋げなければ、せっかくの海外での出稼ぎの苦労の意味がない。各国からの帰還移民者の中には成功して財を成した人や、在留国での経験を生かし新たな事業で成功した人がいた。何か目に見える形で帰還後の生活についてのビジョンを示したい。そうした思いがアシアンフォーラムを立ち上げに繋がった。

アシアンフォーラムの立ち上げメンバーは韓国からの帰還移民者達だった。韓国で亡くなった労働者の葬礼や遺族・留守家族への支援から始めた。徐々に各国の帰還移民者へと活動の輪が広がった。シッディ氏は総代表としてフォーラムでの活動を行うが、大部分の会員は畜産業、農業、旅行業、飲食業、小売業など他の仕事を持つ。活動資金は国際機関のファンドや寄付、シッディ氏が韓国で信頼関係を築いた韓国NGOからも財政支援を受けている。

2018年8月末にポカラメトロポリタン市第22区のPumdi BhumdiにあるKalabang Ghaerdi Homestayで第14回年次総会および第6回アジア人権と文化開発フォーラムが挙行された。選挙により新たな運営委員も選出された。フォーラムの活動はネパールの議会からも注目されており、政府の要請で各国からの帰還移民者の成功事例を編集する事業も行っている。韓国の外国人労働者政策の波及効果がネパールで果実になり始めている。

アシアンフォーラムの各事業

Kalabang Gharedi Homestay事業の推進
村からの景色
写真 : 村からの景色

 Kalabang Gharedi Homestayの整備は欧州委員会とスイス開発協力機構の財政支援を受けて行われる過疎地に残された移民者の家族のための所得創出の基盤づくりであるプロジェクト(The Joint Migration and Development Initiative:JMDI)の一環だ。宿泊施設の整備はアシアンフォーラムの主導で行われた。Kalabang Gharediは、アンナプルナ山麓の魅力的な地域ではあるが、伝統的な農業以外に雇用機会がない。

客室
写真 : 客室
 アシアンフォーラムはこのプロジェクトで2つの村10世帯を選び、外部からの宿泊者の受け入れができるようトイレやシャワーなどのインフラ整備、宿泊客のおもてなし教育を行った。他の村民の所得創出につながるように、農作物や伝統工芸品販売、民族衣装の着用によるパフォーマンスや、団体客向けの食事の提供をすることで日当を得るシステムを作った。各家には牛や山羊などが飼われており、ネパールの伝統的な生活を体験でき、都市に住む子供たちや外国人に人気の施設となった。 Village Tourism Promotion Forum Nepal (VITOF NEPAL)から2017年に最優秀ホームステイを授与された。2018年8月末には運営をアシアンフォーラム主導から村の共同体へ運営権が譲渡された。譲渡式にはガンダキ県産業観光省森林環境環境大臣Bikash Lamsal参加し式典が行われた。

民族衣装で大臣を迎える様子
写真 : 民族衣装で大臣を迎える様子
Bikash Lamsalガンダキ県産業観光省森林環境環境大臣と共に
写真 : Bikash Lamsalガンダキ県産業観光省森林環境環境大臣と共に
委譲式で振舞われた料理
写真 : 委譲式で振舞われた料理
パヌ診療所
パヌ診療所
写真 : パヌ診療所

 アシアンフォーラムはパヌ診療所の保健事業推進を支援している。 パヌは行政の支援が行き届かないネパールの中でも特に貧しい地域である。村の代表は村が自立し健康に暮らせるよう20年前に貯蓄事業を始めた。ネパールでは貯蓄という概念がいまだに浸透していない。事業当初はお金を貯めることを可笑しいと考える風潮が強かった。

ところが事業を始めて15年目に転機が訪れた。アシアンフォーラムとの出会いである。村の代表の考えに共感したシッディ氏が韓国在留時に信頼関係を築いた韓国のNGO法人희망의 친구들(希望の友達)からは診療所設立金援助を受けることができるよう橋渡しをした。村の貯蓄で少しずつ購入した土地に診療所をたてた。現在では診療所に看護師と薬剤師は常駐している。医師は51名登録されており、そのうち11名が定期的に診療所を訪れ健康相談や治療を行う。韓国からのボランティア医師派遣による健康診断事業が行われている。

運営費もこれまでは韓国NGOの援助を受けてきたが、そもそも保健事業は政府の責任でもある。モデル事業として政府に働きかけていく予定だ。

パヌ村はポカラとカトマンズを結ぶ幹線道路から北に抜けた場所にある。幹線道路沿いには病院がほとんど無い。万一の事故の場合も今ではポカラかカトマンズまで搬送しなければならない。村の代表はもし診療所から救急車が出動できれば助かる命も増えるだろうと考え、現在は救急車調達のために奔走中だ。

診療所前の薬局
写真 : 診療所前の薬局
パヌ診療所の看護師
写真 : パヌ診療所の看護師

アシアンフォーラム:http://asianforum.org.np/en_US/

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