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韓国の「EPS」帰還労働者がもたらす波及効果についての研究
Entreprenurship of EPS Return Ⅿigrants from South Korea

Research Theme

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研究の概要

この研究は韓国で、外国人勤労者の雇用などに関する法律(以下、EPS)によって政府間協定で働く非熟練外国人労働者(以下、移住労働者)の労働経験や、結婚によって韓国に居住し、のちに離婚などを経て母国に帰還した人々とその家族の韓国での経験と、帰還時に持ち帰るビジネススキルやノウハウ、考え方などの社会アイテムによる、帰還後の出身国や生活様式に現れる変化を分析し、人の移動をとおした受容国、送出国双方にもたらされる制度の効果を解明します。

さて、日本国内でも移民研究は政治学、法学、社会学、経済学、文化人類学、歴史学、教育学など多岐にわたり展開されてきました。その対象地域も日本国内に留まらず、EU地域、アメリカ、オーストラリアなど各国・地域の実態調査へと広がっており蓄積があります。しかしながら研究の前提には、移住は出身国より良い暮らしを求めた永続的な定住との固定観念があることが問題だと考えています。そのため戦後の引揚げ、現代の日系帰還移民を対象とした研究は日本を視角基点とした政治的被害者、経済的保護対象者の枠組みで捉えられがちでありますし、戦前からの外国籍居住者や近年急増する新たな外国人に対しても保護対象や弱者、場合によっては秩序を乱す異邦人と捉え、同化と多文化の直線軸の中で日本がどう統合すべきかに関心が集中しています。

これに対し本研究で取り上げるEPSの移住労働者は定住しないことが前提の移住です。また、結婚移民者は韓国人の配偶者として家族を形成し半ば永遠に韓国に居住することが前提ですが、実際に離婚し、帰国した外国人女性に話を聞いてみると、結婚に対する夢は抱いていても夫婦が一生を添い遂げるというような観念は薄く、離婚をとおして帰国する、あるいはしたいと考える人が一定数存在します。これは個人の観念なのか、各出身国に通底する観念なのか、また世代的な観念なのかは調査をしてみないとわかりませんが、結婚移民者の場合は婚姻制度、子供との関係などで帰還後も長らく韓国との関係を維持する傾向があります。

上記のようなUターン移民は、実は世界的には数世代にわたり外国で定住する移民者よりも圧倒的に多いのです。例えば労働者が求めるのは移住先での良い暮らしではなく帰還後に出身国で待つ家族とともにより豊かに暮らすことです。特にEPSの移住労働者は帰還後の生活基盤をどう設計するかが常に念頭にあります。帰還ネパール人は期限が決められた送金を日々の生活の為ではなく帰還後の事業資金などにあて、帰還後は韓国でのノウハウや技術をネパール社会に合わせてカスタマイズして起業し、巨大な富を得た人もいます。ベトナムは韓国から進出している企業が約8200に及びます。帰還後は韓国系の工場の中間職員となり韓国で培った語学力とノウハウをベトナム人工員に教えるなどの業務に従事しています。このように同じ韓国で働いた経験が母国の状況によって異なっているのです。

また、結婚移民者は韓国人の配偶者となるために韓国にやってきた人々です。図1のように1990年頃までは全体結婚件数の約1.2%で、その内訳も9割近くが外国人の夫と韓国人妻というパターンでした。こうした傾向が変化するのが1995年頃でした。国際結婚において外国人妻が7割強と男女が急激に逆転します。これには1995年に中韓行政間で講じられた「農村独身男性結婚事業」が影響していますが、この頃から国際結婚の比率が徐々に向上していくのが図からも分かると思います。

fig1
出典 国家統計ポータルの全体婚姻数および国際結婚数の各統計から作成

農村の独身男性にとって農業を継いでくれる次世代は重要な存在と考えられていましたが、望んで農家に嫁いでくる韓国人女性は少ない状況でした。「農村独身男性結婚事業」によってまずは同じ民族で韓国語も話せる朝鮮系中国人女性との結婚数が増加しました。しかし、韓国人の妻になり韓国籍を取得すると離婚してしまうケースや、韓国籍を取得して韓国で働くために農村独身男性とお見合いをするケースが問題となりました。そのため韓国政府は国籍法を改正し婚姻による国籍取得条項を削除しました。韓国の国籍法については拙論「韓国の社会統合と国籍法」をご参照ください。

2000年頃になると韓国人の結婚仲介業者が各国でお見合いの機会を設定し、少ないときは1度、多くても2~3度会った後に結婚するケースが増加しました。ターゲットも東南アジアの女性へと移行していきました。図1に見るように、韓国の全体婚姻率中の国際結婚率は2003年頃から約8%の水神で推移しています。2008年から2011年に至っては結婚数の約10%を超すなど、多くの東南アジアの女性が国際結婚仲介業者を介して韓国に嫁いできました。

2007年に韓国人夫によるベトナム人妻の殺人事件が公になり、韓国内の結婚仲介業の規制、東南アジア諸国における国際結婚に対する規制が強化されました。図2に見るように国際結婚数は一時落ち込んでいるのがわかると思います。このように国際移動を伴う国際結婚は送り出し国および受け入れ国の制度の変化によって左右されるのです。

またこうした形の国際結婚は離婚率が高いのも特徴であるといえます。図2の国際結婚数と離婚数を比較したグラフですが、国際結婚数が減少しても離婚数はほとんど減っていないことがわかると思います。外国人妻は子供の関係や生計の問題から離婚後そのまま韓国に留まり生活する人もいますが、母国に帰国して第二の人生を送る人もいます。この研究では後者の人々も対象に調査を行っています。帰還した女性は一人で自ら帰還したもの、在留資格がなくなり帰還したもの、子供を連れて帰還したものなど様々です。帰還後も子供と同居しながら働く人もいますし、子供を自分の親や親族に預けて都市で働く者、また外国に出稼ぎに行くもの等様々です。

韓国の結婚移民に関する制度についての詳細は拙論「韓国における出入国管理法関連法令の改正と移住外国人の在留資格」asiabunkakenkyu50_125(222)-104(243)をご参照ください。

fig2
出典 国家統計ポータルの国際結婚数と離婚数の各統計から作成

現在はまだ二カ国しか訪問していませんが、今後は特にEPSによる労働者数の多い国を基準に訪問を重ねて、韓国での労働経験や人脈がどのように帰還後に活かされ、あるいは捨象されているのかを定性調査および深層調査をとおして、韓国の外国人関連法制の波及効果を分析します。


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