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韓国の「EPS」帰還労働者がもたらす波及効果についての研究
Entreprenurship of EPS Return Ⅿigrants from South Korea

Vietnam

ベトナム人帰還者に対する韓国のサポート

ベトナムEPSセンターの帰還労働者支援

カン・ビョンジュさん
写真:カン・ビョンジュさん

韓国での出稼ぎ労働からの帰還後にどのような生活を送るのかは出身国家によって異なる。ベトナムの場合は帰還者自ら起業するほか、韓国から進出した企業も再就職先の受け皿になりつつある。

ベトナムに対する海外からの投資は日本と韓国でここ数年は首位を争っている。2020年2月12日付の日経産業新聞によればサムスン電子がハノイに2022年を目途に研究開発拠点の設置、SKグループが地場複合企業最大手のビングループと自動車分野で連携するそうだ。また、韓国産業人力公団の出先機関であるベトナムEPSセンターは韓国から進出している登録企業が中小合わせて8200程度あることを把握している。これらの企業はベトナムで働きたい韓国人の働き口となると同時に、韓国からの帰還労働者にとって韓国での経験やノウハウ、語学力を生かせる職場となる。すでに韓国系企業の中間管理職として働く人々も一定数いる。ベトナムEPSセンターでは年に2度、ベトナム人帰還労働者に対して再就職展覧会を行っている。

韓国産業人力公団はEPS提携各国にEPSセンターを置いている。ベトナムEPSセンター長のハ・サンジンさんと次長のカン・ビョンジュさんにセンター運営についてお話をお聞きした。センターの業務は大きく3種類だ。第一はベトナム人労働者を選抜すること、第二は帰還者のベトナム内での再就職先を紹介すること、第三は韓国で未請求のまま帰還した場合の保険金を代わりに請求することだ。

ハ・サンジンさん
写真:ハ・サンジンさん

まず選抜についてであるが、ベトナム人労働者の選抜はEPS-Topikと呼ばれる韓国能力試験と面接、職種によって技能試験が行われる。

 EPS試験合格者の水準は年々向上している。語学能力試験は読解40分、リスニング30分で50問を解くが、誤答が二つだと合格、三つだと不合格になるレベルだ。ベトナムは労働者をたくさん送出しているが希望者が多く実際の合格率が低い。たとえ合格しても全体的なポイントが高い方からまた諸条件が合うものから事業所が決まっていくケースが多く、合格者すべてが渡航できるとは限らない。希望者名簿に登録されて2年以内に渡航しなければ再度試験を受けなければならない。試験が毎年行われるため、その年に渡航が決まらない場合、翌年に新たな合格者が名簿に追加されるため、渡航はますます困難になる。

EPSの制度では男女の比率を決めたり、女性に不利な試験をしたりはしていない。しかし女性の場合はたとえ点数が高くても受け入れ先の事業主が女性を避ける傾向があるため女性の渡航者が少ないのが現実だ。事業主が女性を避ける理由はEPSの場合は受け入れ事業所の規模が定められており、おのずと中小規模の事業所となることから、女性向けの施設整備を整えることができないという事情があるからだ。そのためこの傾向は今後も続くと思われる。

 

次に帰還者のケアについてだ。韓国産業人力公団は外国人勤労者の帰国までの期限が残り三か月に迫ると帰国に備えて勤労者に準備を促すよう事業主に連絡している。これは、帰還後の暮らしを心配して帰国を躊躇し、事業所から失踪して不法在留者とならないようの事前措置である。希望者には帰還後も人力公団からの求人情報を受け取れるよう帰還者ネットワーク「リターンジョブ」も整備している。「リターンジョブ」は個人がサイトに求職登録し各国EPSセンターで斡旋するシステムだ。仮に帰還前に母国での再就職や事業アイテムがなくても、不法在留にならずに帰還すれば、帰還後も各国EPSセンターが情報を利用して就職活動ができる。勤労者側は合法に帰国することで次回の渡航や再就職に円滑につなげられ、韓国側は韓国内の安全や社会的費用も抑えることができる。従前は準備期間をあえて設けておらず、帰還の前日まで働き帰国していたため、退職金などを事業主が送金しない事例も多発し問題となった。仮に退職金や帰国のための保険の掛け金などを帰還前に受け取ることができなかった場合でもベトナムEPSセンターがサポートし受け取りこぼしがないよう制度を整備した。

しかしながら現実は思うようにいかないのも事実だ。今年(2019)はEPS期間終了後に帰還せず不法在留者となった比率の高いベトナム人の出身40郡を特定し、この地域からの就業者の渡航を取りやめた。不法在留率が低下すれば渡航中断は解除される予定であるが、渡航を希望する当事者にとっては深刻な問題だ。

また、ベトナム人帰還労働者に対しての再就職説明会だが、これは年に二回行っている。最も重視しているのは両国民の人的交流の強化である。こうした催しはベトナムだけでなく東南アジア各国で行われており、6億に及ぶ人口規模、たゆみなく伸びる経済成長率は財閥大手だけでなく韓国人の個人事業主にとっても東南アジア進出には絶好の機会でもある。ベトナムEPSセンターではベトナムの韓国商工会議所とも連携して求人を募り、ベトナム人の韓国企業での就業、また韓国人のベトナム内での就労情報を提供している。

帰還者の中には韓国の事業主からベトナムの韓国系企業を紹介され就職した人や、自分で起業し一定の成功を収めた人がいる。彼らを招請し成功体験を講演してもらい表彰も予定にしている。

 ベトナムはEPSが開始した2004年から韓国との政府間協定を結んでおり、最初の渡航者が約10年の就業を経て帰国してもまだ5年程度と短い。起業した成功者の中には、終業後に娯楽がないベトナムで韓国式のゲームセンターを開業し現在国内10店舗を運営する者、韓国人観光客向けのゴルフや観光、通訳を提供する旅行社を設立した者、ベトナム人従業員10名を雇用する家電専門店を経営する者、帰還後に韓国系不動産業者に就職した後に独立したものなど多様だ。どれも韓国とのつながりや韓国での経験から生み出されたアイテムであり、十分にEPSでの就労の成果の兆しが現れている。今後はさらなる韓国ベトナムの人的ネットワークの活性化や実質的な経済協力に繋がる可能性が期待される。

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